学校連携

“なぜ?”という疑問が、学びを走らせる

東京大学 生産技術研究所 川越至桜教授
東京メトロと東京大学生産技術研究所は、2013年から毎年、中高生向けの鉄道ワークショップを開催しています。
「車両を動かす電力はどこから来るの?」「ハンドルがないのに電車はどうして曲がれる?」など身近な疑問を入り口に、学校で習う教科と社会で使われている科学技術のつながりを伝えてきました。
鉄道ワークショップの立ち上げから携わる川越至桜教授に、企業と大学がコラボすることでどのような学びが生まれるのか。そして、10年以上もの間、連携が続いている理由について聞きました。

東京大学生産技術研究所(以下、東大生研) 次世代育成オフィス(ONG:Office for the Next Generation)の目的について教えてください。

電車や飛行機には学校の勉強が使われていると知ってほしい!

次世代育成オフィスは、日本の次世代を担う理工系人材の育成を目的に、東大生研に2011年に設立された組織です。2040年には理系人材が100万人不足するとも言われている中、産学連携でのワークショップや出張授業を通じて、電車や飛行機、災害対策など、身近なモノやコトを学問的な視点で見ることの面白さを伝えています。数学や理科が実際に社会で役立っていると知れば、学問がぐっと身近に感じられるはず。その活動の一環として、東京メトロさんと鉄道ワークショップを開催しています。

東京メトロとの鉄道ワークショップはどのようなきっかけで始まったのですか。

産学連携で、大学の講義と生の現場を体験!

2011年の設立時、産学連携での教育活動をやりたいと考えていた際に、鉄道研究の専門家である須田義大先生から「東京メトロさんと一緒にやってみたらどうか」と紹介を受けたことがきっかけです。最初は東京メトロさんの鉄道の車輪模型を教材としてお借りして、須田先生がそれを使って出張授業を行い、翌年は東京メトロさんに本物の車両を見せていただけることに。そこで、初回は東京メトロさんの講義、2回目は車両基地の見学、最終回は東京大学による講義という3部構成の講座を実施しました。

実際に講座を実施してみていかがでしたか。

本物の車両整備が間近で見られる貴重な機会を全国へ

本物の車両が整備されている様子を車両基地で間近に見た生徒さんの反応が、非常に良かったです。すごく性能の高いカメラを持ってきて夢中で写真を撮る子もいて、本当に興味を持って参加してくれているという手応えがありました。当初は東京メトロさん経由でリクエストをいただいた、群馬県の高校での講座だったのですが、この体験をより広く全国へ届けたいと考え、2013年に全国募集の夏休みワークショップに発展させました。

東京メトロとコラボするメリットを教えてください。

リアルな体験に生徒たちも前のめり!

一番大きいのは、暮らしの裏にある企業の技術やインフラ、サービスを中高生に見せられることです。鉄道は日常生活を営む上で必要不可欠なものですが、普段「車両を動かす電力はどこから来るのか」「ハンドルがないのにどうやって曲がるのか」なんて考えることはなかなかありません。けれど、確実に理科や物理の授業で習ったことが活かされている。実際の現場を見ると、それが実感でき、今まで何とも思わなかったことに好奇心が湧いてきて、グループワークやディスカッションにも熱が入ります。

ワークショップを通して、子どもたちに提供したいことは?

非公開な現場の見学も、工学に興味を持ってもらいたいから。

東京メトロさんには、車両基地や整備工場、変電所など、普段は公開していない場所の見学も「次世代育成のために」と最大限ご協力いただいています。そのおかげで、生徒さんに豊かな学びの時間を提供できていると思います。工学に興味を持ってもらうきっかけ作りの場で、東京メトロさんのように本物の現場を、公開できるギリギリのところまで見せてくれるパートナーは心強いです。

2013年から現在に至るまで、10年以上も東京メトロとのコラボを継続できている理由は何でしょうか。

毎年カリキュラムを改善して、常にレベルアップ!

鉄道ワークショップは毎年テーマや形式を検討し、反省会やアンケートを通じてカリキュラムを改善し続けてきました。高等学校の必修科目に「総合的な探究の時間」が取り入れられたことで、生徒側もグループワークやディスカッションに年々慣れ、積極性が高まっているように感じます。形式的な取り組みではなく、そうした社会の動きに合わせて軌道修正してきたことが、継続につながったのだと思います。今では、東大生研にも「鉄道ワークショップに参加したことがある」という学生がいるんですよ。

今後、鉄道ワークショップで挑戦したいことを教えてください。

広くさまざまな人に学びの機会を届けたい!

ワークショップはどうしても少人数でしか開催できません。次世代育成オフィスでは、YouTubeで提供するデジタル教材や、車輪の仕組みなどを体験できる貸し出し用教材などをご用意していますが、より効果的に多くの学校などで活用いただけるよう、新たな教育プログラムも含めて整備できればと考えています。そして、限られた参加者だけでなく、より広くさまざまな人に対して、東京メトロさんとともに鉄道を通じた学びを届ける仕組みを作っていきたいです。

東京大学 生産技術研究所 川越至桜教授

2008年、総合研究大学院大学物理科学研究科天文科学専攻修了、博士(理学)。2026年より現職。日本におけるSTEAM(Science, Technology, Engineering, Arts and Mathematics)教育の実践に向けて、科学技術の研究成果を活用した教育プログラムを研究・開発している。